私が旅行業を始めた理由の一つに、ある中国出張で経験した“忘れられないトラブル”があります。
それは、旅行好きな私が旅に対して抱いていた信頼感を大きく裏切られる出来事でもありました。
当時、私は仕事で中国を訪れており、帰国便は深圳(シンセン)からのフライトを予定していました。すべてのスケジュールは問題なく進んでおり、あとは無事に帰国するだけ──のはずでした。ところが、空港に向かってみると、なんと予定されていたフライトがキャンセルになっていたのです。しかも、その事前連絡は一切なく、空港の掲示板で初めてその事実を知ることになりました。
「え? キャンセル?」「代替便の案内は?」「どこに問い合わせればいいのか?」
現地では情報も少なく、誰に聞いてもはっきりとした答えが返ってこない。
私一人ではどうにもならず、結局、自力で広州(グワンジョウ)まで移動し、別の航空会社の便を手配して、どうにか帰国することができました。
冷静に聞けば「まぁ、よくあるトラブル」と受け止められるかもしれません。
でも、現地での混乱と不安、言葉の壁、予定通り帰れない焦り──それらが重なったとき、旅行者がどれほど無力に感じるかは、実際に体験してみないとわからないものです。
帰国後、私は今回の件について旅行会社に問い合わせ、改善を求めました。
しかし返ってきたのは、「現地の航空会社の都合ですので弊社では対応できません」との素っ気ない返答。誠意も謝罪もなく、まるでこちらの訴えなどどうでもいいと言わんばかりの対応でした。
納得がいかず、旅行業界全体の窓口である旅行協会にも相談しましたが、「当協会では個別案件には関与できません」の一点張り。
このとき、私は本気で思いました──「客を舐めてんのか」と。
旅先で起きるトラブルは、誰にでも起こりうるもの。だからこそ、もしものときに誰がどこまで責任を持つのか、そしてどんな対応をしてくれるのかが、旅行者にとって最も大切なのだと痛感しました。
この経験が、私の中に強い動機として残りました。
「自分なら、困っている旅行者を絶対にこんなふうに突き放さない」
「不安な状況でも、安心して頼れる存在になりたい」
そう思い、私は旅行業に携わる決意をしたのです。
旅行は、本来ワクワクする体験であるべきです。
だからこそ、トラブルが起きたときこそ、**“人としての対応力”と“現場感覚”**が問われる。
そんな想いを胸に、私は今日も一人ひとりに寄り添った旅行サービスを目指しています。
「客を舐めてんのか」と感じた中国出張──私が旅行業を始めた原点