こんな方におすすめ
- 旅行業に携わる方:インクルーシブなサービス設計を考えるヒントが得られます。
- ハンディキャップを持つ方:自分の立場に寄り添った旅行の可能性を知るきっかけになります。
- 旅好きなすべての人:異なる視点から「旅の価値」を再認識し、より深い楽しみ方を見出せます。
旅行は、誰にとっても日常を離れて新しい価値観や文化に触れる機会です。飛行機や新幹線に乗れば数時間で全く異なる地域へ行くことができ、車であれば小さな町や自然豊かな場所に気軽に出かけられる。そんな「移動の自由」が現代社会では当たり前のように享受されています。しかし、当たり前の自由が、必ずしもすべての人に平等に与えられているわけではありません。健常者であれば気にならない段差や案内板の文字サイズも、視力が弱い人や車椅子の人にとっては大きな壁になることがあります。
私自身、片目が弱視というハンディキャップを抱えて生きてきました。完全に見えないわけではないものの、右目はほぼ視力がなく、左目だけに頼る生活です。その経験から、旅行における「平等」とは何か、そして旅行事業者としてどのように寄り添えるのかを強く考えるようになりました。本稿では、私の個人的な体験を交えながら、旅行とハンディキャップの関係について深掘りしていきます。
視野を広げる旅の価値と海外で得られる学び
私が旅行に強く惹かれるのは、単なる娯楽や気分転換のためではありません。むしろ「人生に必要な栄養素」として捉えています。日本国内の旅行でも多くの学びは得られますが、私にとって特に意味を持つのは海外旅行です。なぜなら、国内旅行ではどうしても日本的な価値観や生活リズムの中で完結してしまうのに対し、海外では「常識が通じない場面」に出会えるからです。
例えば中国の都市を歩いたとき、道路に散水車が常に水をまいていた光景が印象的でした。乾燥を防ぐための措置ですが、歩行者からすれば滑りやすく危険に感じる場面もある。それでも現地の人々はごく自然に受け入れて生活している。日本であれば「安全第一」で避けられるようなことも、そこでは文化や慣習として当たり前に存在しているのです。こうした「価値観の違い」に直面すると、自分の中の物差しが揺さぶられます。
また、海外旅行は視野を広げるきっかけにもなります。現地の人との会話、交通機関の利用、食事の習慣など、ひとつひとつが自分にとって新しい挑戦です。国内では考えられない不便さや、逆に日本では得られない快適さも体感できる。そうした体験が、人生の後半戦に入った今でも「まだまだ世界には学ぶべきことがある」と強く感じさせてくれます。
ハンディキャップを抱えた旅人の目線に立つ
私は生まれつき右目が弱視で、視力はほぼゼロに近い状態です。左目に頼ることで日常生活は送れていますが、長年の酷使により左目の視力も少しずつ低下してきました。結果的に、健常者であれば気にならないことが、私にとっては大きな負担になる場面が多々あります。例えば、空港の案内表示。文字の大きさやコントラストによっては読み取れず、人の流れを頼りに進むしかないことがあります。また、夜間の街歩きでは光が乱反射し、道の段差を見落とす危険性もあります。
こうした体験を通じて、私は「もし耳が聞こえない人だったら?」「もし車椅子の人だったら?」と想像する癖がつきました。健常者が気づかない不便さを、ハンディキャップを持つ人は常に感じている。旅行という非日常の場では、それが一層大きくのしかかります。バスの乗降時の段差、観光地での案内不足、ホテルでの視覚的な情報欠如など、小さな不便が積み重なると旅そのものがストレスになりかねません。
だからこそ、旅行事業者は「不便を放置しない」姿勢が重要です。大げさな施設改修でなくとも、案内板にピクトグラムを加える、段差に色を付ける、通訳ガイドが積極的に声をかける──そうした小さな配慮が旅行体験を大きく変えます。弱視である私自身がその恩恵を感じるからこそ、事業者の立場としても意識し続けたいテーマなのです。
マイノリティに寄り添う旅行スタイルの必要性
世の中の大多数は健常者です。そのため、旅行ビジネスが健常者を中心に設計されるのは自然なことです。しかし、だからといってマイノリティを軽視して良い理由にはなりません。障害を抱える人は決して自分の意思でその立場を選んだわけではなく、先天的あるいは事故や病気による後天的な事情でそうならざるを得なかったのです。
私は断言します。誰一人として「片目が見えない人生を送りたい」「足を失った人生を選びたい」と望む人はいません。それでも現実には、そうした不自由を抱える人が確実に存在する。だからこそ旅行業に携わる者は、健常者と同じように彼らにも「旅の楽しさ」を届ける使命があります。
とはいえ、障害者だけに特化したサービスに偏りすぎると、健常者とのバランスを欠いてしまう。大切なのは「双方が無理なく共存できる仕組み」です。例えば、誰にとっても分かりやすい案内板は健常者にとっても便利ですし、段差の少ないバリアフリー設計はベビーカー利用者にも役立ちます。このように、マイノリティへの配慮は結果的に社会全体に利益をもたらすのです。
私の立ち上げた「5円トラベル」では、健常者もマイノリティも一緒に楽しめる旅行を目指しています。単なる観光案内ではなく、配慮の行き届いたトータルコーディネートを提供し、誰もが安心して旅を満喫できるようにする。その姿勢を持ち続けることこそ、これからの旅行業に必要な在り方だと信じています。
FAQ
Q1. 弱視や車椅子利用者でも海外旅行は楽しめますか?
A. はい。事前の準備や配慮次第で十分に楽しめます。例えば現地ガイドや通訳を手配する、バリアフリー対応ホテルを選ぶなどで不安は軽減されます。
Q2. 健常者と障害者の旅行を両立させることは可能ですか?
A. 可能です。大多数向けのサービスに加え、マイノリティ向けの工夫を取り入れることで、双方が無理なく楽しめる環境を作れます。
Q3. 旅行事業者が意識すべき最も重要な点は?
A. 「小さな不便を放置しないこと」です。段差の有無、視覚的サイン、音声案内などの細部への配慮が旅行体験を大きく変えます。
まとめ
旅行は健康な人だけの特権ではなく、すべての人に平等に開かれたものであるべきです。弱視という立場を持つ私だからこそ、健常者には見えにくい課題や不便さを知っています。その経験を活かし、旅行業を通じてマイノリティに寄り添いながら、健常者とのバランスを保ったサービスを提供していきたい。人生を豊かにする「栄養素」としての旅を、誰もが安心して楽しめる社会づくりに貢献していきたいと考えています。