こんな方におすすめ
- 山口県の観光情報や地域情報を発信している人
- 地元の場所をどのように紹介すればよいか分からない人
- 有名観光地に頼らないツアーを作りたい人
山口県の観光について話すと、「山口県には見るところがない」「有名な観光地が少ない」「わざわざ県外から来てもらうほどの場所がない」といった声を聞くことがあります。
確かに、京都や大阪、福岡のように、地名を聞いただけで多くの人が観光地を思い浮かべる地域ではありません。山口県内でも、有名な場所をいくつか挙げた後は、次にどこを案内すればよいのか分からなくなる人が少なくないでしょう。
しかし、山口県に本当に観光資源がないのでしょうか。
私は、観光地がないのではなく、山口県にある場所や文化を、観光客に分かる言葉で説明できる人が少ないのだと考えています。
どれほど美しい景色や歴史的な建物があっても、その場所の背景や、ほかの地域との違いを伝えられなければ、観光客にとっては「きれいな場所」で終わります。
反対に、地元の人にとっては何でもない港、工場、商店街、食堂、無人駅であっても、物語や地域との関係を説明できれば、訪れる価値のある場所に変わります。
観光地とは、最初から観光地として存在するものではありません。
その場所に意味を与え、外から来た人に価値を伝える人がいて、初めて観光地になります。
この記事では、山口県の観光に足りないものは新しい施設ではなく、地域の魅力を説明する力ではないかという視点から、これからの山口県観光について考えます。
観光地の価値は、景色だけでは旅行者に伝わらない
山口県には、海、山、温泉、城下町、神社、寺、港、工場、商店街など、さまざまな観光資源があります。
しかし、こうした場所を紹介するとき、多くの場合は「景色がきれい」「歴史がある」「食べ物がおいしい」といった、どの地域にも当てはまる言葉で説明されています。
これでは、旅行者に山口県を選ぶ理由が十分に伝わりません。
海がきれいな地域は全国にあります。歴史のある町や神社仏閣も、山口県だけのものではありません。
旅行者が知りたいのは、単にきれいかどうかではなく、なぜその場所が山口県にあり、ほかの地域と何が違うのかという点です。
例えば、古い建物を案内する場合でも、建築された年代だけを説明して終わるのではなく、その建物が地域でどのように使われ、そこでどのような人が働き、町の発展にどのような影響を与えたのかまで伝える必要があります。
港を案内する場合も、船が見えるというだけでは十分ではありません。
どのような貨物が運ばれているのか、地域の産業とどのようにつながっているのか、海外との間でどのような商品が行き来してきたのかを説明できれば、港は単なる物流施設ではなくなります。
工場も同じです。
住民にとっては見慣れた施設でも、製品が作られる工程や、そこで作られたものが日本や海外でどのように使われているのかを説明できれば、産業観光の対象になります。
観光客は、景色を見るためだけに旅行するのではありません。
自分の住んでいる地域にはないものを見て、その土地の背景を知り、自分なりの発見を得るために旅行します。
特に、すでに日本を何度も訪れている外国人旅行者は、有名な神社や寺を見るだけでは満足しないことがあります。
その地域で人がどのように暮らし、何を作り、どのように町が形成されてきたのかに興味を持つ人もいます。
山口県に観光地がないように見えるのは、場所が足りないからではありません。
その場所を、旅行者が興味を持てる物語へ変換できていないからです。
地元の人が「何もない」と言うほど、魅力は見えなくなる
地方で観光について話すと、地元の人自身が「ここには何もない」と言うことがあります。
毎日見ている景色や、普段利用している店に、特別な価値を感じにくいからです。
しかし、地元の人が何もないと思っている場所が、外から来た人にも価値がないとは限りません。
地域独特のスーパー、昔ながらの食堂、無人駅、港の風景、工場の煙突、古い商店街などは、住民にとっては日常です。
一方、都市部や海外から訪れた人にとっては、自分の生活圏にはない珍しい風景です。
例えば、山口県のスーパーに並んでいる魚や総菜は、地元の人には普通の商品かもしれません。
しかし、魚の種類、調理方法、価格、売り場の作り方を説明すれば、地域の食文化を知る場所になります。
地元の食堂も、単に安く食事ができる店として紹介するだけではなく、どのような人が利用し、どの料理が地域で長く食べられ、店主がどのような考えで営業を続けているのかを伝えれば、旅行者にとって特別な場所になります。
無人駅についても、電車の本数が少ないという不便さだけを見る必要はありません。
駅が作られた理由、かつてどのような人が利用していたのか、周辺地域の人口や産業がどう変化したのかを説明すれば、地方の変化を感じられる場所になります。
問題は、地元の人が地域の価値を知らないことではありません。
知っていることを、外から来た人に分かる形で説明する習慣が少ないことです。
地域の歴史や生活について詳しい人でも、それを旅行者向けに整理して話せるとは限りません。
専門的な説明を長く続けても、初めて山口県を訪れた人には伝わらないことがあります。
逆に、「昔からある」「有名だから」「地元では当たり前」とだけ説明しても、価値は伝わりません。
必要なのは、その場所がなぜ面白いのかを、旅行者の知識や関心に合わせて説明する力です。
中国や台湾から来た旅行者であれば、東アジアとの交流や港町の歴史と結び付けることができます。
欧米から来た旅行者であれば、産業、建築、宗教、地域社会の変化などから説明する方法があります。
同じ場所でも、相手によって伝え方は変わります。
山口県に必要なのは、さらに多くの観光施設を作ることだけではありません。
すでに存在するものの価値を発見し、旅行者に合わせて説明できる人を増やすことです。
案内人が変われば、普通の場所も観光地に変わる
同じ場所を歩いても、案内する人によって、旅行者が受け取る印象は大きく変わります。
場所の名前と年代だけを説明する案内では、旅行者は情報を聞いて終わります。
一方、その場所で起きた出来事、人々の生活、現在まで続いている文化を具体的に伝えれば、旅行者は風景の見方を変えます。
例えば、何も説明されなければ、古い商店街は店が減った通りにしか見えません。
しかし、以前はどのような店が並び、どのような人でにぎわい、なぜ現在の姿になったのかを聞けば、地域の変化を感じられる場所になります。
現在も営業を続けている店の人から話を聞く機会があれば、さらに深い体験になります。
観光地として有名ではない場所ほど、案内人の役割は大きくなります。
有名観光地は、旅行者が事前に写真や歴史を調べて訪れることができます。
しかし、地域の日常や産業は、説明する人がいなければ、その価値に気づかず通り過ぎてしまいます。
山口県で観光案内をする人に必要なのは、歴史の知識だけではありません。
地域の産業、食文化、交通、暮らし、人口変化などを関連付け、旅行者が理解できる言葉で伝える力が必要です。
また、外国人旅行者を案内する場合は、単に日本語を外国語へ翻訳すればよいわけではありません。
日本人には説明しなくても分かる習慣や制度も、外国人には背景から伝える必要があります。
なぜ靴を脱ぐのか、なぜ地域ごとに祭りがあるのか、なぜ商店街が駅前に作られたのか。
こうした基本的な説明があることで、旅行者は日本や山口県への理解を深めます。
これからの山口県観光では、決められたコースを大人数で回るだけでなく、旅行者の興味に合わせた少人数の案内が重要になるでしょう。
食に関心がある人には市場やスーパー、飲食店を案内する。産業に関心がある人には港や工場地域を見せる。歴史に関心がある人には、
建物だけでなく、地域がどのように変化したのかを説明する。
このような案内ができれば、山口県全体が観光の対象になります。
新しい巨大施設を作らなくても、既存の場所に説明と人の交流を加えることで、旅行者にとって価値のある時間を作れます。
観光地とは、有名な場所のことではありません。
旅行者がその土地の価値に気づき、訪れてよかったと思える場所のことです。
そして、その気づきを生み出すのが、観光地として説明できる人なのです。
まとめ
山口県に観光地がないと言われることがあります。
しかし、海、山、港、工場、商店街、食堂、無人駅、歴史的建造物など、観光の材料になる場所は県内に数多くあります。
問題は、それらの場所がなぜ面白いのか、ほかの地域と何が違うのかを、旅行者へ伝える力が十分に育っていないことです。
景色がきれい、食べ物がおいしい、歴史があるという説明だけでは、山口県を選ぶ理由にはなりにくいでしょう。
その場所がどのように生まれ、地域の暮らしや産業とどうつながり、現在までどのように変化してきたのかを伝える必要があります。
また、住民にとって当たり前の場所ほど、外から来た人には新鮮に映る可能性があります。
地域のスーパー、昔ながらの食堂、古い商店街、港、工場なども、説明する人がいれば観光地になります。
山口県に必要なのは、観光施設を増やすことだけではありません。
地域を歩き、その価値を発見し、旅行者の関心に合わせて説明できる人を増やすことです。
観光地は、行政が指定した場所だけに存在するものではありません。
案内人がその場所の背景を語り、旅行者が新しい見方を得た瞬間、普通の風景が観光地へ変わります。
山口県には観光地がないのではありません。
山口県全体を観光地として語れる人が、まだ少ないのです。